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略 歴
椹木 野衣/2002
浅田 彰/2002
浅田 彰/1999
椹木 野衣/1998
倉林 靖/1997
倉林 靖/1996
浅田 彰/1996
渡部 誠一/1995
林 洋子/1995
倉林 靖/1995
倉林 靖/ 1993


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CATALOGUE TEXT/ATM-ART TOWER MITO/1995



カタログテキスト criterium 18. 1995



 田中隆博によるクリテリオムのための新作は、″ROOM 01″と名付けられている。すでに彼は″ROOM 00″という作品を発表しており、この新作はその延長線上に位置する。″ROOM 00″では、ポラロイド写真による、ある種の既視観とアウトフォーカスの曖昧な捉えがたさとをあわせもちながら視覚的強度をももつイメージの断片(フラグメンツ)などの他に、12.5KHzという極めて高い周波数をもつ音が用いられており、緊張感ある空間が提示されていた。
 今回の新作″ROOM 01″では、展示室空間、6,075本の蛍光管、16KHzの高周波およびハイラックスランプによる6,500Kの白色光などが素材として用いられた。サウンドは前回の″ROOM 00″よりさらに高い周波数がプログラムされ、人間の聴取可能領域の限界値に近く、私の知る限りおよそ半数のオーディエンスは、この空間を無音として認識した。もちろん頭蓋に共振する耳鳴りに似たノイズを確実に知覚したオーディエンスも少なくはない。また6,500Kは、高い色温度で、白日の光を実現した。注意深くここに佇むならば、誰もがその鼓膜と網膜に泡立つような知覚を刻印されるはずである。そして大量の蛍光管のブロックに、それが破砕された時の記憶あるいは想像を呼び覚まされる者もいたかも知れない。それは視覚を損なう脅威をともなうものである。
 ROOM(=部屋)とは、純粋知覚の装置である。そこでは聴覚や視覚などの人間の知覚のボーダーが提示されている。人間の感覚器官の機能が捉えうる領域は、世界のごく一部にすぎないということでもある。
 さらに「世界はあらゆる瞬間ごとに新たに存在するということ、つまり事物は瞬間瞬間に存在することを止め瞬間瞬間に更新させられるということである。」
 これはマイケル・フリードの『芸術と客体性』の引用文中にある、18世紀の神学者ジョナサン・エドワーズの言葉だが、人間の知覚野を超えて存在する世界はまた不断の運動のもとにあるとするのである。そこには不安定だが豊饒なイメージがある。
 人間の視覚や聴覚などの知覚認識とは、感覚器官の機能にのみよるのではなく、経験や学習によって組織されるものである。つまりさしあたり視覚についていえば「見ることと知ることの間には相互性がある。すなわち、知るためには見なければならないが、見るためにはまた知らなければならないのである。」(ミケル・デュフレンヌ『眼と耳』)
 しかし視覚認識とは言語化可能な知的獲得との連関においてのみ組織されるものでもない。言語というコードが包摂し得ない、模糊としたイメージの領域が確実に存在する。私たちの網膜は、ある意味の了解とともに自覚的にイメージを捉えもするが、意味のコードを媒介せず、いわば無自覚にあるイメージを意識下に蓄積したりもする。こうして記憶の裡に沈殿した「視線の断片」は、ある時不意に再生され視覚認識を組織することがある。
 「視線の断片」とは、1995年にNWハウスで田中が発表したインスタレーションに与えられたタイトルでもある。そこでは田中がおよそ十年前から記録してきたフラグメンツすなわち写真2,500点の内から100点が展示された。この夥しいフラグメンツは田中の日常の視線が生み出したものであり 、田中を知覚にたいする厳格にして執拗な批評者として認知させるものであった。
 田中は不明確な意味より不安定だが豊かなイメージの世界を渉猟するのである。彼の創造とは、知覚野のボーダーに挑みこれを覚醒、更新しようとする思考によるものなのだろう。
 ところで彼のこの個展は、水戸芸術館においてジェームズ・タレル展と同時に開催された。タレルもまた知覚の作家であるが、その世界は祈りや癒しに通ずるところがある。田中はしかしその対極にあって、あくまでアグレッシブに知覚の問題に挑むかと見える。
 田中には、意味のコードを拒否するところがあるが、私は今回の″ROOM01″を前にして、モーリス・ブランショの『白日の狂気』を想起する誘惑を禁じ得ない。この難解な物語の主人公はガラスで眼を傷つけられ、これを癒すために7日間白日の狂気のもとにおかれる。これは創世の7日間ではないか。透明な白日に満たされたこの部屋(ROOM)は、創造と狂気とが秘かに語られる場所なのである。


渡部誠一(ATM 水戸芸術館現代美術センター学芸員)